
虹のように多様な色を秘めたオパール、ありのままの佇まいが美しい原石のアメジスト、黄金色の針状結晶が煌めくルチルクオーツ……。1つひとつが無二の存在感を持ち、堂々と輝きを放つ石の数々。
「NUDGE(ナッジ)」は、そんな石の中から惹かれるものを選び、自分で石のカッティングやデザインを決めてつくることができるカスタムジュエリーブランドです。代表の三神優子(みかみ・ゆうこ)さんは、「“自分を生きる”人を増やしたい」と、2020年3月にNUDGEを立ち上げました。
朗らかな笑顔と凛とした佇まいが印象的な三神さんですが、実はご自身も20代半ばまで他者評価に振り回され、“自分を生きる”ことができなかったといいます。 「いまも完全に乗り越えられたわけではないし、きっと一生悩むんだと思います」ーーそう笑う三神さんに、NUDGEに込めた想いを聞きました。
「ありのままの自分でいい」と教えてくれたインドで、ジュエリーブランドをつくる

「子どもの頃から、絵に描いたような優等生でした。勉強もスポーツも音楽も何でもできるべき、苦手なことがあるなんて許されないと思っていて。親の期待に応えれば褒められるという経験が積み重なり、承認を求める対象が親から学校へ、会社へ、社会へと広がっていったんですね。
本当に長い間、『自分が何をしたいか』よりも、『周囲の人から認められるか』を軸にして行動を決めていました」
そんな三神さんが“初めての反抗期”を迎えたのは、26歳のとき。新卒で入ったリクルートで4年働くなかで、「ありのままの自分を大切にしたい」という気持ちが高まり、親の猛反対を振り切って世界一周の旅に出たのです。

「旅から帰ってきた後のことは何も考えていなかったけれど、ひとつだけ、『衣食住のように、人が生きていくための礎となるような産業に携わろう』ということは決めていました。広告費をいただき消費を促進する仕事は、自分が本当にやりたいことではないと感じていたんです。
旅をするなかで印象的だったのは、世界中どんな国の人でもジュエリーを身に着けていたこと。決して豊かとは言えない、小さな村でも。その多くが親から受け継がれたものや結婚のタイミングでつくったもので、情緒的な支えであると同時に、何かあったときにお金に替えられる生活の支えでもありました。わたし自身、母から旅のお守りにターコイズの指輪を贈られ、肌身離さず身につけていたこともあって、ジュエリーっていいな、と思いました」

もうひとつ、三神さんに大きな影響を与えたのがインドでした。 「インドは多様性に溢れた国で、みんなが自分を受け入れ、他人の軸ではなく自分の軸で生きているんです。『自分探しなんてしなくても、いまここにいる自分でいいよ、そのままでいいんだよ』と教えられた気がしました。
そうした寛容さの背景にはさまざまな要因があると思いますが、ひとつに『子は宝』という価値観がある気がします。インドでは新しい命が誕生する度に、社会全体で歓迎するんです。人が生きるということに対する、根源的な喜びやエネルギーがある国だと感じました」

1年半の旅のなかで、三神さんは「親に縛られていたと思っていたけれど、結局最後に選んでいたのは自分だった」と気づき、責任を自分の手に取り戻すことができたといいます。
同時に、自分が何に心を動かされるのか、何を大事にして生きていきたいのかがクリアになっていき、旅が終わるころには、「インドでジュエリーブランドをつくりたい」という夢が、胸に芽生えていました。

提供したいのは、自分の心を見つめて、自分で決める体験
……と言っても、そこからすぐに起業したわけではありません。インドの人材紹介会社の日本法人への就職、マザーハウスでの社会人インターン、結婚と2度の出産など、さまざまな経験を積み、33歳のときに長年温めてきた構想を形にしました。
ブランド名のNUDGEは、「そっと背中を押す」という意味の言葉。「ありのままのあなたであろう」というメッセージを込めて、「BE you」をブランドコンセプトに掲げました。

「オーダーメイドにこだわったのは、自分で選ぶ体験を提供したかったから。小さなことかもしれないけれど、自分の心を見つめて、自分で決めることの積み重ねが、『自分軸で生きる』ことにつながると思ったんです。
パーソナルカラー診断の資格を持っているので聞かれれば似合う色をお伝えするし、『新しい挑戦を応援してくれるような石がほしい』といった相談をいただけば石言葉をもとにアドバイスするけれど、わたしが行うのはあくまでイメージを形にするお手伝いです。オーダーしてくださった方には、『答えはわたしの中ではなくあなたの中にあるので、最終的にはあなた自身で決めてほしい』とお伝えしています。
好きな色から決めてもいいし、誕生石を選んでもいいし、直感に従ってもいい。“自分がどうしたいか”に向き合ってほしいと思っています」

メールでのカウンセリングや「そらとひと」で開催するオーダー会を通し、設立から1年で300人前後にジュエリーをつくる体験を提供してきました。「自分でつくったジュエリーを見ると元気が出る」「形あるものだから、つくるときに考えたこと、決意したことを思い出すことができる」ーーそんな感想をいただくのが何より嬉しいと、三神さんは顔をほころばせます。

「自分を生きること=キラキラ生きること」ではない
ただ、すべてが順風満帆、というわけではありません。文化や商習慣の違いから、インドの工場が品質や納期を守ってくれないこと。ブランドとして提供したいものと、お客様が求めているもののズレ。解決しなければいけない課題は無数にあり、2020年は子どもが寝たあと夜中の3時まで働く日々が続いたといいます。
「この事業を通して不幸せになる人がいないようにしたい、と一所懸命になるあまり、自分自身を搾取するような働き方をしていたことに気づきました。『自分軸で生きよう』とお伝えしているわたし自身が自分をないがしろにしていたら、本末転倒ですよね。昨年12月までは月に50件オーダーを受けていましたが、30件まで減らし、関係者と気持ちよく仕事ができるよう体制の見直しを図っているところです」

三神さんは、そうした悩みや課題も隠さずにnoteで開示しています。ネガティブなことも含めて自分の感情や状態と向き合うこと、それを言語化すること、他者に開示することは、なかなか難しいこと。ましてや起業して1年というと、ついつい「うまくいっている」アピールをしたくなってしまいそうですが……。
「うまくいかないことの開示にはまったく抵抗感がないんです。外からは輝いているように見える人でも、みんな何かしら抱えているよね、と思っているから(笑)。
それに、『自分を生きること=キラキラ生きること』ではないと思っています。しんどい、苦しい、どうしよう、と思う気持ちも、わたしの大事な一部。そんな自分をダメだなと思うこともあるけど、『じゃあ誰がダメってジャッジしたの?』『わからないけど、社会からはそう思われるに違いない』『あれ、また人の視点が気になっている』と、自分を見つめるようにしています」

“自分を生きる”と決めたからといってすぐに他人の目が気にならなくなるというわけではないし、好きなことを仕事にしたら迷いがなくなるというわけでもない。揺らぐこともあるけれど、それもまた自分だと受け入れていく。
そうした三神さんのありようや試行錯誤する姿に触発されて、「迷ってもいいんだ」「全部がうまくいっているように見せかけなくてもいいんだ」と肩の力が抜け、自分で自分を縛っていた鎖を外すことができるようになる。きっと、そんな方がいるのではないかと思います。

「先が読めない複雑で不確実ないまの時代、どう生きればいいか教えてくれる人はいません。だから、自分で選んで、自分で決めて、その結果に責任を持つということを、みんなができるようになるといいな、と思います。 そして、わたしは子どもがいるので、子どもたちが息苦しさを覚えずに、“自分を生きる”ことができる社会をつくりたい。そのためにはまず、大人が実践して背中を見せないと、ですね」
もしあなたが、「“自分を生きる”一歩を踏み出したい。ありのままの自分や他者を肯定できる自分でありたい」と願っているのなら。NUDGEのジュエリーは、その想いをそっと後押ししてくれるはずです。
NUDGE
蔵前の「アトリエそらとひと」では、2か月に1度のペースでNUDGEのオーダー会を開催しています。詳細はそらとひとFacebookをご確認ください。
