漁業の街、釧路発
魚網で仕立てた極上のボディタオルが
女性の社会的自立へ向けた第一歩に

北海道釧路市。漁業が盛んなこの街で、サンマ漁などに使われる魚網からボディタオルが生まれました。「魚網でタオル?」と驚くようなアイデアですが、たっぷりとした泡立ち、心地良いマッサージ効果など、一度使い始めると手放せなくなる優れものです。それもそのはず、魚網はやわらかな魚のうろこを傷つけないように作られているもの。人の肌をやさしく洗うのにぴったりなのです。
さらにこのタオルには実用性だけでなく、未来へ向けて歩みを進める女性たちの思いがつまっていました。
下を向く母親たちのために立ち上がる

魚網タオルの物語が動き始めたのは、いまから約10年前の2011年。生みの親である森崎三記子さんは、女手ひとつで3人の子どもを育て上げ、両親を見送り、「さあ、好きなことをして生きていこう!」と心機一転、キャリアコンサルタントの資格を取ってハローワークで働いていました。担当するマザーズハローワークのコーナーを連日訪れていたのは、子育て中の母親たち。その声に耳を傾けていたある日、東日本大震災が起こり、釧路の街にも暗い影を落としたのです。
「3.11の後は、お母さんたちがみんなが下を向いていましたね。震災で元気をなくしていた上、人余りの時代で、スキルや経験があってもなかなか条件が合わず採用に至らない。みんな凹んじゃってね。お母さんたちがこんな状態だったら、子どもたちも元気がなくなってしまう、とすごく心配でした」
自分にできることはないだろうか、と考えた森崎さん。思い浮かんだのは、地域の女性たちを集めて“何か”をやってみよう、ということ。そこで、ハローワークで出会う「この人、能力もやる気もあるのに…」、「この人、磨けば光るのに…」という女性たちに声をかけました。小さな小さな「釧路モカ女性プロジェクト」の誕生です。
社会と繋がりたい、という思いを見失ってほしくない

「女性には、家庭の事情で思うように働けない時期がありますよね。そんなとき、社会から隔離されたようで苦しくなったり、つい自分を卑下してしまったりする方がたくさんいます。でも、自分への誇りとか、社会と繋がりたいという思いは絶対に見失ってほしくなくて。ときどき集まって、それぞれが得意なことを披露しあったらどうだろう、と思ったんです。そこから何かアイデアが見つかるかもしれないし、出会いから化学反応が起きて仕事に繋がるかもしれない。ほら、女性って誰かと繋がるとパワーが湧いてくるものでしょう?私はその“繋げ役”になろうと思ったんです」
ピンチから生まれたアイデア、魚網タオル
月に1回集まって何かしよう、と始まった活動でしたが、つねに全員が集まれるとは限りません。借りた場所代を参加者の人数で割ろうとすると、ひとり当たりの金額が高くなってしまう、という問題も発生しました。場所代ごときを理由に、せっかくの活動が潰れてしまうのはもったいない。活動費を工面するために、森崎さんたちは知恵を絞りました。

「私、以前、魚網を切って紐を付けたタオルを知人にもらったことがあったんです。それがすごく良かったことを思い出して、魚網タオルを作って売ったらどうだろうって。漁師さんから余った網をもらってつくってみたら、ハローワークの同僚たちが喜んで買ってくれたんですよ。それが始まり。つまり、私たちはタオル屋さんを目指したわけではなくて、活動の資金源のひとつがこのタオルなんです」
魚網タオルが女性の雇用を創出
2013年、「釧路モカ女性プロジェクト」は釧路市の緊急雇用事業の対象に。助成金をもとに魚網タオルを正式に商品化し、地域の女性たちを内職ワーカーとして雇用することになりました。漁業の街ならではのアイデアが地域を活性化し、さらに女性の雇用を創出したのです。
そして2017年、「釧路モカ女性プロジェクト」は、思いはそのままに活動範囲を広げて(株)MOKA.へ。森崎さんの厳しいチェックをクリアする内職ワーカーのプロ意識は高く、魚網シリーズは「ボディタオル」、「スキンケア」、「タワシ」がラインナップされるまでに育ちました。

「ありがたいことに魚網は丈夫でへたらないから、なかなかリピートしてもらえないんですよ(笑)。それで新商品を出さなくちゃ、ということになって、従来のスタンダードタイプに加えて、独自の網をオーダーしてプレミアムタイプもつくりました。こちらはさらにふんわりとモコモコの泡立ちで極上気分を味わえます。
“もっとおおきく、かっこよくありたい”

最初に団体を立ち上げて、約10年がたちました。内職を将来の就職や起業のための踏み台にしてほしい、と願い続けてきた森崎さん。実際、この10年間で女性を取り巻く空気はずいぶん変わり、内職から自立へと歩みを進める方も増えたと振り返ります。ただ、立ち上げ当初の内職ワーカーの1/3ほどが諦めてしまったことには、苦い思いが残ります。
「そっといておいてほしい気持ちも分かるし、無理に引っ張るのは私の性に合いません。でも、もしかしたら、きっかけに乗り切れなかっただけなんじゃないかな、という思いもありますね。だからこそ、『自分以外にも信じられる人はいるよ』『社会と繋がっていようよ』ということを、言葉ではなく態度で伝え続けていきたいんです」
ちなみに、会社名の「MOKA」は“もっとおおきくかっこよくありたい”の頭文字。「“なりたい”ではなくて“ありたい”なのよ」と森崎さんは強調します。ほかの誰かに生まれ変わることを夢見るのではなく、すでに自分のなかにいる「おおきくてかっこよい人」を大切に、新たな一歩を踏み出そう。魚網タオルからは森崎さんのそんなエールと、凜として前を向く釧路の女性たちの姿が伝わってきます。
驚くほど泡立つ定番商品「ボディタオル」、洗顔用泡立てネット「スキンケア」、あらゆる台所用品を洗える「タワシ」、すべてにスタンダードタイプとプレミアムタイプがラインナップされています。スタンダードタイプは実際にサンマ漁などで使われる網で、15本の糸で撚られたもの。プレミアムタイプは9本の糸で撚ったオリジナルの網からつくられたもので、繊細な肌触りと泡立ちが自慢。


魚網タオルの販売先である銭湯、土産物店、ホテルなどは、新型コロナウイルス感染防止のため軒並み閉鎖。
けれども、オンラインでこれまで以上に人と繋がれる可能性を見い出すなど、森崎さんは前を向いています。
MOKA.シリーズ
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