

「SALASUSUは、工房で働く女性だけじゃなく、みんなにとっての『SALA(学校)』なんだと思っています。もちろん、わたしにとっても」
ナチュラルなキャンバストートバッグやいぐさを使った小物を制作するカンボジアのファッションブランド「SALASUSU(サラスースー)」。ここの工房は、ものづくりの現場であると同時に、“ライフスキル(がんばるための技術)”を育む学校でもあります。
2018年にこのサイトで紹介してから3年、SALASUSUにはさまざまな変化があったといいます。ブランドディレクター兼理事となった菅原裕恵(すがわら・ひろえ)さんにお話を伺いました。

かものはしプロジェクトから独立し、「NPO法人SALASUSU」に
SALASUSUにとって大きな変化のひとつは、2018年春に認定NPO法人かものはしプロジェクトから独立したこと。
かものはしプロジェクトのミッションは、「子どもが売られない世界をつくる」です。2002年からカンボジアでさまざまな活動を展開してきましたが、人身売買の問題がほぼ解決されたため、カンボジアから撤退しインドでの活動に注力することを決定しました。
でも、カンボジアにはまだ、貧困や教育格差といった問題があります。SALASUSUのメンバーは、最貧困家庭出身の女性たちが貧困サイクルから抜け出すための支援はまだ必要だと考え、NPOを設立して活動を継続することにしました。

そのタイミングで菅原さんも理事となり、デザインだけでなく、団体の経営も見ていく立場に。プライベートでは結婚して子どもも生まれ、公私ともに激動の3年間だったといいます。

コロナ下で、工房の存在意義を問い直した
独立して新たな道を歩み始めたSALASUSUですが、新型コロナでは大きな打撃を受けました。観光客の減少により、収入の多くを占めていたカンボジアでの売上が激減。政府の通達を受け、工房も約9ヶ月間閉鎖しました。

「助成金や寄付のおかげで経営難はなんとか乗り切りましたが、一番困ったのは、工房でやることがなくなってしまったこと。女性たちは、商品をつくるプロセスを通してライフスキルを磨き、学びを深めます。仕事がなければ学びも生まれません。一時は経営メンバーから『仕事も学びも生まれない工房は、いっそ終了したほうがいいんじゃないか』という意見も出ました。
こうした事態に立ち向かう力をつけてほしくて、わたしたちはライフスキルトレーニングを行ってきたはず。仕事がないのに女性たちを囲い続けるのは、かえって彼女たちの可能性を狭めることになることになるんじゃないか。……そう言われて、たしかに、と思う部分もあったんです」

実際に、女性たちは家族でレタスの栽培や養鶏を始めるなど、創意工夫してたくましくコロナ禍に立ち向かっていました。「ライフスキルトレーニングを受ける前だったら、きっと途方に暮れたまま何もできなかった。いまは、『明日からこれをやってみよう』と考えることができる」と言ってくれた女性もいたそうです。

「そうした姿に希望を感じた一方で、やっぱり工房にはSALASUSUの魂があるから、なくしたくないと強く思いました。工房で学びを得た女性たちが、社会にその学びを還元していく循環を生み続けたい。時代に合わせて哲学やメソッドをアップデートしていく場でありたい。経営メンバーみんなで工房の役割を再定義して、続けていく決意を固めました」

届けたいのは、自分について考える時間
こうした話し合いを経て、SALASUSUは自分たちが大事にしている哲学を改めて言語化しました。中心に掲げたのは、『Enjoy Your Life Journey』という言葉です。

「これは、『ハッピーに生きよう』という意味ではありません。人生にはうれしいこともあればつらいこともありますよね。アップダウンがあることも含めて人生の旅と捉えて楽しもう、味わおう。そんなメッセージなんです。
つくり手の女性たちを見ていると、このことを強く感じます。たくさんのものを背負って、苦しみを経験して、それでも工房にいるいまこの瞬間が楽しくて幸せなんだと笑っている。芯の強さやしなやかさを感じます。
そんなふうに人生を味わうために必要なのは、『わたしはあのときこう思っていたんだな』『こういうことを大事にしたいんだな』と自分を振り返る時間や、内省・内観する姿勢ではないでしょうか。商品を通して、『目まぐるしい日々のなかで、たまには自分のための時間を取ってみてはいかがですか』と提案できたらと思っています」

誰もが自分だけの人生の旅を楽しめるように。SALASUSUは「まずは安心・安全から」「自分らしさの発見」「お互いに“SUSU(がんばって)”!」「学びで世界を広げよう」「あなたのLife Journeyを楽しもう」という5つの哲学を、自らも実践しながら発信しています。

商品は、SALASUSUワールドへのチケット
もともとは婦人靴メーカーでデザイナーとして働いていた菅原さん。退職後、「3か月だけ手伝って」と相談されてSALASUSUに入り、それが1年に伸び、社員に仲間入りして、いまでは団体の理事になりました。

「大学で開発学や国際協力学を学んだわけでもないし、最初は恐れ多いと思っていたんです。『わたしは専門じゃないから』とほかの経営メンバーに任せきりにしていたこともいっぱいありました。
でも、現実には教科書のような正解はなくて、仮説を立てて、実行して、振り返るしかありません。『持っている知識や経験が違うだけで、それはみんな同じなんだ』と気づいて、わたしも自分の考えていることを伝えるようになりました」

日本の市場でモノを売るということ自体、難しいこと。その上、SALASUSUには制作過程にさまざまな縛りがあります。生産管理や年間計画、日本での販売戦略など考えることは山積みで、頭を抱えることも多いそう。

「わたし、割とすぐに自信をなくして落ち込むんです(笑)。『自分じゃなかったらもっとうまくいくんじゃないか』って、苦しくて一歩も動けなくなってしまう。でも、そうやって自分を低く評価して認めていない状態は、うちの哲学に反するなとも思っていて。わたし自身もちゃんと、『Enjoy Your Life Journey』の状態でいられるようにしたいと思っています。
チャレンジがたくさんあるということは、その分『わたしってこうなんだ』と気づいて、学ぶ機会もたくさんあるということなんですよね。だから、SALASUSUは、わたしにとっても『SALA』なんです」

自分自身が勇気づけられてきたSALASUSUの哲学や、工房内にある「失敗してもまた挑戦すればいい」という、あたたかく力強いエネルギー。それが広がっていくことが、なによりうれしいと菅原さんは話します。

「工房に来てくれればそういうことをダイレクトに伝えられるけど、ものづくりはちょっと遠回りなアプローチです。でも、言葉を介さない分、世界中どこにでも旅立っていけるし、美しさや使い心地を媒介にして生活の中に取り入れてもらえます。
バッグやサンダルに哲学が書かれているわけじゃないけど、風合いや佇まいはSALASUSUの哲学の輪郭となっています。それになんといっても、波乱万丈な人生を送ってきた女性たちが、その人生の一部を使ってつくったものでもあります。背景に興味を持ってもらえたら、つくり手について知ったり、工房を訪問したりできる道筋を用意しています。
SALASUSUワールドに出会うチケットとして、商品を届けていけたらと思っています」
SALASUSU
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