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ミャンマーの豊かな伝統文化を、守り、伝え、受け継いでいく

ミャンマーの旧首都・ヤンゴンに、日本人が経営する人気セレクトショップ「dacco.(ダッコ)」があります。扱っているのは、少数民族の美しい伝統織物や味のある動物張り子、PPバンドでできたカラフルなかごバッグなど、ミャンマーらしい魅力のある商品数十種類。その多くは、店主である和田直子(わだ・なおこ)さんが、各地の職人と相談しながら製作したものです。

「ミャンマーにはいい素材がたくさんあるのですが、地元の方々はそれをより魅力的な商品にしたり、売れるように工夫したりすることがあまり得意ではなかったんです。『もっとこうしたらいいのに』と思ったことを形にするうちに、dacco.ができました。以前からものづくりをしていたわけではないし、リーダータイプでもなくて……いまこういうことをしているのも、本当にたまたまなんです」

そう控えめに話す和田さんは、コロナ禍や政情不安を受け、日本に一時帰国中。逆境のなかものづくりを続ける理由や、ミャンマーへの思いを教えていただきました。

自分がほしいものを自分でつくる

和田さんは日本の学校で教員を勤め、中米ホンジュラスで青年海外協力隊員として活動した後、2003年に友人を訪ねてミャンマーへやってきました。

「最初は旅行のつもりでしたが、縁あって現地で働きはじめたんです。教育を通じた地域開発を行うNGOの職員として地域を回るなかで、使い込まれた生活道具にキュンとしたり、市場で売られている商品を見て『この素材でこんなものをつくったら可愛いかも』と妄想を膨らませたりしていました」

当時のミャンマーには、積極的に欲しいと思えるものがあまりなかったそう。ミャンマーに駐在した外国人は、自分好みにデザインした小物などの布製品をオーダーしてお土産にしていました。

「ミャンマーでは、服でも雑貨でも家具でもオーダーメイドが身近なんです。大きさはこれくらいで、素材はこれで、この色を塗って……って。それがすごく楽しくて! その延長で、手工芸品をプロデュースして販売したらどうだろうと思いました」

2012年から商品をつくりはじめ、2013年にdacco.をオープン。いまでは、ヤンゴンでお土産や贈り物を買おうと思ったら必ず名前が上がるお店となりました。

脈々と続いてきた伝統文化が失われないように

135を超える民族が暮らすミャンマーには、各地域に守り伝えられてきた伝統文化や工芸品があります。それらを良い形で残していくことも、和田さんがdacco.を始めた理由のひとつです。

「たとえば、ミャンマーにはロンジーという筒状の巻きスカートのような民族衣装があり、いまでも制服や日常着として身につけられています。でも、海外から入ってくる安価で手入れが楽な洋服に押され気味です。

ロンジー以外の織物も民族や地域ごとに柄が違って一つひとつに意味があるのですが、職人は取引先から伝統柄ではないものを大量に注文されたりすると、『こういうのが売れるのか』と思って、その後もずっとそういう柄を織りつづけてしまう傾向があります。誰かが悪いわけではありません。でも、それをそばで見ている子どもたちは、ずっと受け継がれてきた柄を知らずに育ってしまう。もったいないことだと思います」

女性用のロンジー生地を活用したヘアバンドとシュシュ

dacco.のこだわりは、伝統を守りながら、新たな発想でものづくりをすること。職人から届いた伝統柄を見て、その特徴を最大限活かすように、社内でワインバッグやカードケース、ヘアアクセサリーといった布製品に仕立てています。

「男性用のロンジーで女性用の小物を仕立てたり、ある民族の生地を使った小物に別の民族の生地で裏地をつけたり、ということも、自分だけの判断ではしないようにしています。現地の人の意見を聞きながら、思いを汲み取りながら新しい商品をつくるように心がけています」

娘が結婚するとき、肩にかけて送り出すショール

新しい商品を開発する際は、洋裁が得意な友人に型紙をつくってもらったり、お客様から寄せられた声を反映したりしながら試作と改良を重ねるそう。アイデアを思いついてから店頭に並ぶまでに、2年以上時間がかかることも。

「ビジネスとしての成功が目的だったら、さまざまな場面で妥協してしまったかもしれません。伝統が継承されるように願いながらものづくりを続けてきて、職人やパートナー団体さんも喜んでくれている現状を考えると、これまでのやりかたで間違ってはいなかったのかなと思います」

コロナ禍と政情不安。それでも、ものづくりを続ける理由

2020年の3月末、コロナ禍で大使館から注意喚起が出たことを受け、和田さんは2人の子どもとともに一時帰国しました。現地スタッフとはLINE等でやりとりしながら、お店の運営とものづくりを続けています。

今年5月には鹿児島市内にdacco.初の日本支店をオープンしました。オンラインショップも準備するなど、存続のために手を尽くしています。ただ、いつミャンマーに戻れるかはわからず、何もかもが手探りの状態。「いっそのことやめてしまって、このまま日本で暮らそう」という考えが頭をよぎることはないのでしょうか。

「もともと、ミャンマーの伝統工芸が受け継がれる下地が整ったら、いつdacco.を畳んでもいいと思っていました。でも、まだそういう状況にはなっていませんし、私もつくりたいものがたくさんあります。状況が落ち着き次第、ミャンマーに戻るつもりです」

ミャンマーを取り巻く情勢はとても複雑で、インタビュー中には「うまく言葉にならなくて……」と涙で声が詰まってしまう場面も。そうした姿が何よりも、和田さんのミャンマーへの思いを物語っているように見えました。

「ミャンマーって、本当に人が魅力的なんです。親切で、ユーモアがあって、誠実で。とても良くしてもらったしお世話になったから、自分にできることで役に立てたらいいな、と思っています」

daccoシリーズ

商品一覧
文・飛田恵美子 写真・秋山まどか(2021年11月30日公開)