伝統織物・小倉織の
縞柄をモダンな
アクセサリーに布に込められた物語を形にする

ミラノでも人気の洗練された縞柄 8ヶ月間の研究を経て、加工技術を確立

初めて小倉織を見た瞬間、「モダンでかっこいい。ぜひアクセサリーにしてみたい」と思ったという綿瀬麻意子さん。小倉織をつかったアクセサリーブランド「縞コロン」は、綿瀬さんの熱い思いによって誕生しました。

小倉織×アクセサリーという発想
小倉織は、福岡県北九州市に江戸時代から伝わる木綿の織物。縦縞が特徴で、二本の糸をより合わせた双糸織のため、矢の先も通さないという記述が残っているほど丈夫。徳川家康が羽織として愛用していたとも言われています。しかし、長州征討による職人の離散や、昭和初期の近代工場の発展のあおりを受け、これまでに2度、生産が途絶えてしまいました。いまの小倉織は、1984年に復元され再興したもの。今ではイタリア・ミラノを始め世界でその洗練されたデザインが高い評価を受けています。
「武士が身に付けたという男性的なイメージが強いため、『小倉織でアクセサリーは無理』『小倉織を使うなら、丈夫さを生かした作業着やバッグがいいのではないか』とさまざまな人に言われました。でも、私はこの美しく奥の深い縞柄を生かしたアクセサリーにしたかったんです」
さっそくアクセサリー作りに着手したところ、大きな壁に当たってしまいました。布を樹脂でコーティングしようとすると、色が変わってしまうのです。なんとかそのままの発色を樹脂に閉じ込めたい。試行錯誤に8ヶ月もの月日を費 やし、ようやく発色が変わらない独自の方法を確立。特許を取得しました。
何かを作ることが、自己解放への道だった
独身時代の綿瀬さんは、地元の山口宇部空港でチェックインカウンターの仕事をしていました。25歳のとき、結婚と同時に退職。北九州市の会社に勤める夫は転勤が多く、綿瀬さんが仕事を続けることは難しかったのです。31歳で娘を出産し、生後6ヶ月のときに埼玉県に転居。慣れない育児に加え新しい環境にも戸惑い、さらに実母がくも膜下出血で倒れて意識不明に。ショックのあまり産後うつがひどくなり、不眠に苦しむ日々が続きました。

出口の見えないトンネルに一人ぼっちでいるような毎日に、転機は偶然訪れました。子どもを寝かしつけた後、ふと子どものアルバム作りを始めたのです。
「何かを作ることがこんなに心癒されるものとは思ってもいませんでした。楽しくて楽しくて、毎晩、時間を忘れて夢中で手先を動かしていて、そこで初めて『私がしたいことは、これだったんだ』と気づいたんです。子どものころ『お姉ちゃんなんだからしっかりしなさい』と言われて育ち、親の言う通りに習い事をして、親の勧めに従って進路を決め、自分がしたいことなんて何もなかった。私は何にも夢中になれない人なんだと思っていました。その上、子どもが生まれてからは『◯◯ちゃんのママ』と呼ばれるようになり、“私自身”はどこに行ったのか、わからなくなっていたんです」
アルバムのほかにも「何かを作ってみたい」と思い、アクセサリー作りを始めました。身につけていてほめられる機会が増え、友人にプレゼントするように。その後、子どもが5歳のときに埼玉県から北九州市に転居。ハンドメイドのイベントに出展したことがきっかけで、ハンドメイド作家5人とともにチャレンジショップをスタート。
「そのころ母が亡くなりました。くも膜下出血で倒れたあと、がんが見つかり長らく闘病していました。母の死を経験し、それまでは明日は当然来るものだと思っていたけれど、もしかしたら来ないかもしれない、だから今を一生懸命自分らしく生きなければ、好きなこと、本当にしたいことを思いっきりしなければという気持ちがさらに強くなりました。大好きなものづくりを仕事として長く続けていきたい。そのためのステップアップを考えていたときに、知り合いから職人さんを紹介してもらった縁で、小倉織に出会ったのです」
次のステップは経営者としてビジネスを拓いていくこと

主婦からアクセサリー作家、経営者へ。育児家事との両立や金銭面など、決して順調なことばかりではありません。新商品開発のため彫金を学びに行ったり経営の勉強をしたりと、努力の日々でもあります。それでも「好きなことを仕事にできている」という充実感は何にも代えがたいものとなっています。
2017年には福岡デザインアワードに出品し、見事入賞を果たしました。北九州市の観光スポットである「TOTOミュージアムショップ」や、門司港にある「北九州おみやげ館」での取り扱いも始まり、企業のノベルティや記念品も受注。いまでは、研究開発から参加してくれた職人さん含め、技術者を10人ほど抱えています。みなさん、子育てをしながら、働く母親仲間です。
「小倉織アクセサリーのブランド『縞コロン』と並行して、itohenとしては、いろいろな布を使ったアクセサリーを企画していく予定です。布にはそれぞれストーリーがあります。愛する人が遺した服、思い出いっぱいの服、記念日の服……そうした大切な布をアクセサリーに加工して身につけていただきたいと思っています」 綿瀬さんは布のストーリーを紡ぐ作家として、北九州から各地を飛び回っています。
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