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ネパールで障害者や女性が安心して働ける場作りをそらとひとが応援する
アンジャナさんインタビュー

彼女をここまで強く成長させた背景

番外編:そらとひとが力強いパワーを受けているアンジャナさんインタビュー

開発途上国の中でも特に開発が遅れている後発開発途上国とされているネパールでは、女性に対する差別や障害者への差別、偏見が根強く残っています。貧しい暮らしのなか、少女たちは「いい働き口がある」などの誘いにだまされ、劣悪な売春組織に売られる人身売買が問題になっているほか、結婚した女性も決して安泰ではなく、職のない夫のDVの被害者になるリスクが高いとされています。

障害者に対しては、交通機関や施設のバリアフリー化は程遠く教育や就職が困難であるばかりか、適切なケアや治療もままならず、障害を恥じる家族が家に閉じ込めていることもあるそうです。

周りの人を巻き込んでサポーターにしていく力

母親が山道をおんぶして学校へアンジャナK.C.さんは生まれたときから骨が弱く骨折を起こしやすい骨形成不全症という障害を抱えています。アンジャナさんのお姉さんも同じ障害で中学生のときに亡くなりました。アンジャナさんのお母さんは一人で歩くことはできない彼女を毎日背負い、学校まで往復2時間の山道を朝夕送り迎えしたそうです。お母さんが子どもの頃の時代は、「女の子は勉強する必要がない」と言われ、早くに結婚したため勉強する機会に恵まれませんでした。ですから、なんとしてでも娘には教育を受けさせようと努力してくれたのだそうです。アンジャナさんは一人でトイレに行くことができないので、学校にいる間は何も飲まず食べずに過ごしお母さんの迎えを待っていたそうです。友達も少なく、人に頼ることや人から頼られることはなかったと言います。いじめられることもあり、村の人から差別されることもたくさんありました。

しかし、アンジャナさんの人柄ゆえか、だんだん何人かの友達が助けてくれるようになり、高校では初めて障害のある友だちができたそうです。互いに障害があることの思いを共有し、励まし合いながら勉学に励み、アンジャナさんは奨学金をもらって大学に進学。そこで初めて車椅子の存在を知ったそうです。

弱者の支援をしていきたいというパワー

日本で学び、弱者の自立支援の思いが強くなった卒業後は人権擁護団体で働き始め、大学生ボランティアたちと一緒に貧困女性のサポートを始めました。そんなとき、日本企業「ダスキン」が「アジア太平洋障害者リーダー育成事業」というプロジェクトを行っていることを知り応募。2013年に10か月間、日本で勉強するチャンスに恵まれました。日本での生活はアンジャナさんに大きな衝撃をもたらしました。日本は、ネパールと比較して、バリアフリー環境が整っており、障害者たちが働く場があり、女性たちも差別されることなく活躍しています。子どもたちはみんな学校に通い、将来に夢を持っています。その様子を見て、アンジャナさんの「弱者の自立支援をしたい」という思いはますます強くなりました。ネパールに帰国後、2015年にはネパール地震が発生。多くの建物が倒壊し、けがの後遺症を負った人が増えたこともアンジャナさんの心に影響を与えました。

障害者や女性が安心して働ける場作りを支援するための団体を設立

2016年、アンジャナさんは自らDWEC(Disabled Women Empowerment Center:障害者女性活躍推進センター)を設立します。この活動で、2018年にはアメリカに本部があるYouthPowerの表彰を受けました。これは、USAID、ボルボ・グループ、スタンダード・チャータードが協力し、世界の若者、主に若い女性のための教育と経済状況の改善を目的に設立された基金で、プロジェクトの支援を獲得しました。DWECの運営にあたっては、日本のみなさんからさまざまなアドバイスを受け、サステナブルな支援活動を目指しています。

「ネパールには障害者の福祉制度はありますが、高度な教育を受けることは難しく就職も難しい。そもそも交通機関もバリアフリーでないので移動自体も困難です。さらに、教育を受けていない障害者や女性の雇用創出がとても難しい。経済的な自立ができないために人身売買の犠牲になったり、ホームレス生活を送ったり。結婚しても夫に暴力をふるわれて奴隷のように働かされることも少なくありません。そうした家庭では貧困のため子どもに充分な教育を受けさせることができず、貧困が連鎖することになります」

誰もが暮らしやすい社会をめざして

ネパールの女性の自立のためにアンジャナさんは、貧困に悩む女性たちや障害者たちが、支援団体の協力を得て、自立への希望が持てる未来をめざして、さまざまな取り組みを行っており、多くの人々が協力し合うつながりを構築する試みに挑戦しています。誰もが暮らしやすい社会をめざして、アンジャナさんは、今日も懸命に車椅子を走らせています。

写真:一井りょう